「ペーパーレス化を進めたいが、何から手をつければいいか分からない」——中小企業の現場でよく聞く悩みです。複合機のリース更新やオフィス移転をきっかけに検討が始まるものの、対象が広すぎて結局スキャナを1台増やして終わる、というケースは少なくありません。

紙を一気にゼロにしようとすると必ず頓挫します。月に何百枚も出力され、回覧や承認、保管のたびに人の手間がかかっている書類から順に置き換えるのが現実的です。多くの中小企業でその筆頭になるのが、契約書・申請書・請求書の3つです。

この記事では、この3種類の書類を軸に、どこから着手するかの優先順位と、それぞれをデジタル化する具体的な手順・ツールを整理します。


ペーパーレス化はどこから始めるべきか

ペーパーレス化の成否は、最初に選ぶ対象でほぼ決まります。効果が見えにくい書類から手をつけると、現場は「手間が増えただけ」と感じて元の紙運用に戻ってしまうからです。

効果と着手しやすさで優先順位を付ける

判断軸はシンプルです。「枚数が多い」「複数人の手を経由する」「外部とやり取りする」書類ほど、デジタル化の効果が大きくなります。次の3つは多くの企業でこの条件に当てはまります。

  • 契約書:印刷・製本・押印・郵送・保管と工程が多く、収入印紙のコストもかかる
  • 申請書(稟議・経費・各種届出):社内を回覧して承認を集めるため、紙だと滞留しやすい
  • 請求書:毎月一定量が発生し、発行側も受領側も処理に追われる

逆に、社内メモや一度きりの資料など「枚数が少なく完結する紙」は後回しで構いません。まず痛みの大きい3つを片付けることが、全体を前に進める近道です。

「電子化」と「最初から紙を作らない」を区別する

ペーパーレス化には2つの方向があります。既存の紙をスキャンしてデータ化する「電子化(スキャン保存)」と、契約や申請をそもそも画面上で完結させて紙を発生させない「ペーパーレス(電子データでの作成・授受)」です。

過去の紙はスキャンで片付けつつ、これから発生する書類は最初から紙を作らない仕組みに切り替える——この二段構えで考えると、対象の整理がしやすくなります。なお請求書や契約書を電子データで保存する際は、改ざん防止などの要件を満たす必要があります。詳しくは電子帳簿保存法に対応する最短ルートで整理しているので、保存ルールはそちらを確認してください。


契約書をデジタル化する——電子契約の導入手順

契約書は工程が多く、デジタル化の効果がもっとも分かりやすい書類です。電子契約サービスを使えば、印刷・製本・押印・郵送・ファイリングという一連の作業が、画面上の数クリックに置き換わります。

主要な電子契約サービスを比較する

国内の中小企業でよく使われるのは次の3サービスです。料金はいずれも2026年時点の代表的なプランで、消費税・オプションは含みません。

項目

クラウドサイン

freeeサイン

マネーフォワード クラウド契約

提供元

弁護士ドットコム

freee

マネーフォワード

月額目安

1万円台〜

数千円台〜

会計プランに付帯〜

送信ごとの費用

1件あたり数百円

プランに含む形が中心

プランに含む形が中心

強み

取引先での認知度が高い

契約書の作成支援が手厚い

会計・請求と連携しやすい

選ぶ基準は「取引先がすでに使っているか」と「既存の会計・労務ツールと揃えるか」です。相手にアカウント登録を求めないメール認証型であれば、取引先の導入状況をそれほど気にせず始められます。

導入の進め方

いきなり全契約を電子化しようとせず、相手の合意を得やすい契約から段階的に切り替えます。

  1. 業務委託契約・秘密保持契約(NDA)など、定型的で量の多い契約から対象にする
  2. 自社の契約書テンプレートをサービスに登録し、差し込み項目を設定する
  3. 社内の押印ルール(誰が承認して送信するか)を電子契約の承認フローに置き換える
  4. 取引先には「電子契約への切り替え」を事前に一報し、操作方法を案内する

不動産の一部や定期借地契約など、書面が求められる契約が残る点には注意が必要ですが、日常的に交わす契約の多くは電子で完結できます。


申請書をデジタル化する——ワークフローの電子化

稟議・経費精算・各種届出といった社内申請は、紙のまま回覧すると「誰の机で止まっているか分からない」状態に陥りがちです。ワークフローシステムを使えば、申請・承認・差し戻しがすべて画面上で記録され、滞留が可視化されます。

申請書の棚卸しから始める

ツールを選ぶ前に、まず社内にどんな申請書があるかを洗い出します。次の観点で一覧化すると、電子化の優先順位が見えてきます。

  • 申請の種類(稟議、経費、休暇、購買、各種届出など)
  • 月あたりの件数と、承認に関わる人数・段階
  • 現状かかっている平均日数(申請から決裁まで)

件数が多く承認段階も多い申請書ほど、電子化で短縮できる時間が大きくなります。

ツールの選択肢

すでに使っているツールの延長で始められると、定着しやすくなります。

  • kintone・ジョブカンワークフローなど専用システム:申請フォームと承認経路を細かく設計でき、申請の種類が多い企業向き
  • Google フォーム+スプレッドシート+承認機能:まず簡易に始めたい場合の選択肢。少人数なら十分機能する
  • 会計・労務ツール付帯のワークフロー:経費や勤怠など、対象が特定業務に絞られる場合に相性がよい

申請書のデジタル化は、SaaSが増えすぎて管理しきれなくなる入り口にもなります。導入後の棚卸しの考え方はSaaSの契約を整理する方法を参考にしてください。


請求書をデジタル化する——発行と受領の両面で考える

請求書は、自社が発行する側と、取引先から受け取る側の両方があります。両方を電子化して初めて、紙の往復がなくなります。

発行側:請求書発行サービスを使う

マネーフォワード クラウド請求書、freee、Misocaといったサービスを使えば、請求書の作成からPDF送付、入金消込までを一連の流れで処理できます。毎月同じ取引先に同じ内容を発行している場合は、定期請求の自動作成で手作業をほぼなくせます。

受領側:電子で受け取り、保存要件を満たす

取引先からメールやWebでPDFの請求書を受け取った場合、印刷せずに電子のまま保存することがポイントです。受領した請求書は、日付・取引先・金額で検索できる形でクラウドに保存し、紙への出力を前提にしない運用に切り替えます。

発行・受領のどちらも、保存方法には電子帳簿保存法上の要件があります。具体的な保存ルールは前述の電子帳簿保存法の記事に譲りますが、「受け取ったPDFを印刷して紙で保管する」運用はかえって要件を満たしにくくなる点だけ押さえておきましょう。


まとめ:ペーパーレス化は3つの紙から段階的に進める

ペーパーレス化を成功させる要点は次の3つです。

  • 枚数が多く、人の手を経由する契約書・申請書・請求書から着手する
  • 過去の紙はスキャン保存、これからの書類は最初から紙を作らない仕組みに切り替える
  • 電子で保存する際は、改ざん防止・検索性などの保存要件を満たす形にする

3種類すべてを同時に進める必要はありません。自社で一番手間がかかっている書類を1つ選び、そこから着実に置き換えていくのが定着への近道です。


よくある質問

Q. ペーパーレス化は何から始めるのが一番効果的ですか?

A. 「枚数が多く、複数人の手を経由する書類」から始めるのが効果的です。多くの中小企業では契約書・申請書・請求書がこれに当たります。社内メモのような枚数が少なく完結する紙は後回しで構いません。

Q. 電子契約にすると印鑑はもう不要になりますか?

A. 物理的な押印は不要になり、電子署名やタイムスタンプで代替します。ただし不動産取引の一部など、法律で書面が求められる契約は紙が残るため、契約の種類ごとに確認が必要です。

Q. 受け取った請求書を印刷して紙で保管してはいけないのですか?

A. 電子データで受け取った請求書は、原則として電子のまま保存する必要があります。印刷した紙だけを保管する運用は保存要件を満たさない場合があるため、PDFをそのままクラウドに保存する形に切り替えるのが安全です。

Q. ツールをいくつも導入すると管理が大変になりませんか?

A. その通りで、ツールの乱立はペーパーレス化のよくある副作用です。可能なら会計・請求・契約を同じ系列のサービスで揃えると、連携と管理がしやすくなります。定期的なSaaSの棚卸しもあわせて行いましょう。


「自社の場合、どの書類から手をつけるべきか」「今あるツールで対応できるのか」——ペーパーレス化は、現状の業務量とツール構成によって最適な進め方が変わります。ITの右腕では、30分の無料相談で御社の書類運用をうかがい、優先順位と具体的なツールの組み合わせを一緒に整理します。何から始めるか迷っている段階で、お気軽にご相談ください。